2004年に佐世保市立大久保小で起きた小6女児同級生殺害事件は6月1日で発生から16年。当時加害者は11歳、被害者が12歳の女の子だった。同級生の中には結婚して親になり、子育てと向き合っている人もいる。今、事件について何を思うのか。元同級生の女性(27)が初めて取材に応じ、心境を明かした。
■離れない残像
「忘れてはいけない記憶ですし、忘れようとも思っていません。ただ、事件の記憶にとどまり続けず、前を向いて子どもと向き合っていきたいんです」
女性は静かに語り始めた。電話口の向こうで幼い子どもが元気にはしゃぐ声が聞こえる。あれから16年。結婚して母親になり、子育てに日々追われる今でも、事件の残像は女性の胸から離れない。
仲の良いクラスだった。被害者も加害者も「普通の友達」。事件後、チャット上でのトラブルが犯行の動機だとニュースで知って驚いた。当事者でありながら当事者ではない-そんな戸惑いと悔しさが入り交じった感覚だった。「(加害者と)もっと会話をしていたら気付けることがあったのではないか。事件を防げたのではないか…」
あの日も、給食の時間までは普段と変わらない日常だった。それが突然、断ち切られた。「6年生?」。学校周辺に張り込んでいた記者たちから連日声を掛けられた。女性は、逃げるように近くの友人の家に駆け込んだ。事実と異なるニュースが出たこともあり、傷つき怒りを覚えた。
■両親が支えに
事件の日に給食で出た塩もみキュウリをしばらく口にできなかった。
何度も悪夢にうなされた。あの日の給食前の教室。自分だけが結末を知っているのに、他のみんなは何も知らない。被害者と加害者を2人きりにしないようにと、必死にもがく自分-。「いつもそこで目が覚めるんです」。夢は中学に上がるまで続いた。
落ち込んだり、怒ったり悲しんだりして、不安定だった女性に対し、両親は努めて普段通りに接した。それが日常を取り戻す支えになった。女性は少しずつ、前向きな感情を持てるように。やがて「事件を乗り越えることができた」と思えるようになった。
今、懸命にわが子と向き合う日々が続く。字が読めるようになった。数字が書けるようになった。お友達に優しく接することができた…。子どもの成長が女性に元気と幸せをくれる。
つい怒り過ぎてしまうこともある。それでも「好きだよ」「あなたがいてうれしいよ」と愛情をきちんと言葉で伝えるようにしている。「誰にでも思いやりを持って接することができる人になってほしい」。心からそう願う。
時々ふと考える。「彼女(加害者)の家庭環境はどうだったのか」「どうしてあんな事件を起こしてしまったのだろう」。いつか会って、「真実」を尋ねてみたいと思っている。