ゆっくりと行うさまを「そろそろ」と言う。「手すりにつかまり、そろそろ歩く」というふうに用いる。辞典を引けばもう一つ、「ある状態、時期になりかかった様子」という意味も載っている▲「そろそろ、その時が来た」などと言う。いま周りを見渡せば、二つの「そろそろ」が共に当てはまる。緊急事態宣言が解かれ、そろそろ人と町は動きだしている。ただし、ゆっくり、そろそろと、その動きは注意深い▲きのうまでの土日、観光地は県内客に限って迎え、イベントは控えられた。飲食店は今も営業時間を短くしているところが多い。商業施設にはいくらか客が戻ってきた▲じわじわと、社会はおおむね「再開」に向かっている。だからだろうか、いま見聞きする「中止」の報は余計に胸に重い。県高校総合体育大会(県高総体)の初の中止が決まった。夏の全国高校野球選手権大会も中止の方向という▲大事を取って見合わせたとは知りながら、集大成の場を失ってがっくりと肩を落とす若い人の姿を思うと、代わりに何か発表の場を-と願わずにはいられない▲再開のドアを開くよう「とんとん」とノック音が鳴っている。それに応えてそろりと開く、まだ閉じておく、様子を見る。ドアの内側で数多くの人が思案を重ねている。とんとん拍子に元には戻らない。(徹)
「そろそろ」動く
長崎新聞 2020/05/18 [10:06] 公開