長崎市香焼町の岸壁に停泊中のクルーズ船で起きた新型コロナウイルスの集団感染。感染者はすべて船で働く外国籍の乗組員だったため、周辺で暮らす無関係の外国人技能実習生に「厳しい視線が向けられている」という声を耳にした。実態はどうなのか-。
4月下旬と今月上旬の2日間、三菱重工業長崎造船所香焼工場の周辺で住民に話を聞いて回った。深堀町の商業施設で買い物中の50代女性が言葉を選びながら語る。「関係ないと分かってはいても、外国人を見ると警戒してしまう。そういえば以前より、外国人の姿を見なくなったわね」
香焼工場近くのコンビニでフィリピン人男性(32)に出会った。来日通算5年目。日本人の妻と結婚し、工場内で船の塗装の仕事をしているという。「(周囲の)目が厳しくなるのは仕方ない。もし自分たちがうつっていたら(地域に)迷惑をかけてしまう。そう考えている子も多いと思う」。男性は実習生の思いを代弁するように言った。
別のフィリピン人の青年は「(外には)出ない。怖いから」とぼそり。ウイルス感染が怖いのか、それとも、自分たちに向けられる日本人の「目」が怖いのか-。「すみません…」。男性はこちらの質問を遮って足早に立ち去った。
長崎造船所によると、同工場には約150人の外国人実習生が勤務し周辺で暮らしている。市は、クルーズ船の乗組員が工場周辺の店舗に入ったり、観光をしたりという事実は「確認されていない」と公表。市と三菱側は周辺の連合自治会へ説明に回るなど住民の不安払拭(ふっしょく)に躍起だ。
香焼地区はもともと、まちづくりを話し合う場に外国人労働者を招くなど外国人との「共生」に前向きに取り組んできた。実習生がよく訪れる精肉店関係者は語る。「彼らはまじめで礼儀正しい。片言の日本語で結婚報告をしに来てくれたり、給料をもらった後、家族に仕送りするため郵便局に列をなしている姿も見かけたりしていた。時間はかかると思うけど、元通りに戻ってほしい」
実習生たちは今、どんな気持ちでいるのか。心を寄せている日本人がいることも伝えたくて彼らの姿を探したが、その後、出会うことはなかった。
異文化コミュニケーションに詳しい長崎純心大の畠山均客員教授(65)は「非常事態のとき、人間は心の底に沈んでいる不安があふれてしまう。今回『外国人=コロナ感染者』と一つの集団を例外なく決め付けてしまい、冷たい視線で見るといったことが生じたと思われる。これまで通りの交流を続け、地域とのつながりを切らさないことが何より重要だ」と指摘する。