真言宗の開祖である弘法大師(空海)を祭る伝統行事「お大師さま」が13日、長崎県五島市内であった。各家庭やお堂で大師像を祭壇に飾り、参拝者なら誰にでも飲食を振る舞う「お接待」の風習が息づくが、今年は新型コロナウイルスの影響で大半が食事提供を自粛。参拝だけにとどめるなど、ひっそりと営まれた。
記者は過去2回、地域住民との交流が楽しみで、この行事が盛んな三井楽町の家々を回り取材をしてきたが、今年は玄関や軒下で手を合わせるだけに。代わりに、島で受け継がれる大師信仰について調べてみた。
市内には空海ゆかりの寺院やお堂があり、お大師さまは毎年、各地区で行われる。空海が遣唐使船で訪れた日本最後の寄港地とされる三井楽町では、空海が入定した旧暦3月21日に開催。福江地区などは新暦4月21日に開いている。
「なぜか五島には、他宗派にも大師信仰がある」。そう不思議がるのは、同市浜町の真言宗寺院、來迎院の稲生隆英住職(67)。例えば三井楽町には真言宗の寺はないが、浄土宗などの檀家(だんか)が家庭ごとに大師像を受け継ぎ、お大師さまを開く。「誰に聞いても『昔からやっている』と言うだけで、理由は分からない」
稲生住職によると、お大師さまは、真言宗寺院で大師に感謝を伝えるために開く法要「御影供(みえく)」に由来。かつては檀家が持ち寄った弁当を来訪者にも振る舞っており、その習慣が「お接待」の原形とみられる。やがて寺や家庭ごとに参拝者用の食事を用意するようになり、“宗派習合”で広まったという。
「宗派にこだわらず、先祖から受け継いだ大師信仰を素直に受け継いでいる。島の人たちの優しい気持ちの表れで、本来の宗教の在り方かもしれない」。稲生住職はそう語る。
お接待は中止だが、例年通りに祭壇を飾った家庭もあった。三井楽町の民宿「西光荘」では、近隣住民から寄せられた花や果物を飾り、参拝客を迎えた。
訪れる人はまばら。家族と民宿を営む小坂信太郎さん(63)は「新型コロナで経営は大変だが、『祈る』ことをあらためて見詰め直す機会になった。困難な時だからこそ、自分や他人の大切さに気付き、世界に平和が訪れれば」と願った。
お大師さま 今年はひっそり 食事提供を自粛「祈り」見詰め直す機会に コロナ影響
2020/04/16 [14:27] 公開