九州新幹線長崎ルートで未着工の新鳥栖-武雄温泉(佐賀県)の整備の在り方に対する自治体の考えや課題を探るため、長崎新聞社は長崎、佐賀両県の全41市町にアンケートを実施した。本県やJR九州が求めている同区間のフル規格整備について、本県の全21市町が「新幹線整備の効果を最大限に発揮できる」などとして「賛成」と回答。一方、佐賀県は新幹線新駅ができる武雄、嬉野両市が「賛成」だったが、福岡県に隣接する吉野ケ里町など1市6町は「メリットが少ない」などと「反対」した。ただ、1市2町が「どちらともいえない」としたほか、「その他・無回答」も6市2町を数えるなど態度を明確にしなかった自治体も多く、両県で対照的な結果になった。
アンケートは同区間の整備を巡る両県の意見の相違を踏まえ、昨年8月から12月にかけ、2段階に分けて実施。▽フル規格での整備への賛否▽2022年度暫定開業に伴う期待や懸念-など9項目について尋ねた。「答える時期ではない」として、佐賀県の3市町からは全ての質問に回答がなかった。
同区間のフル規格整備について、本県は▽「賛成」11市6町(81%)▽「どちらかといえば賛成」2市2町(19%)。佐賀県は▽「賛成」2市(10%)▽「反対」1市4町(25%)▽「どちらかといえば反対」2町(10%)▽「どちらともいえない」1市2町(15%)▽「その他・無回答」6市2町(40%)だった。
賛否の理由では、賛成自治体は時間短縮効果や安全性を挙げ、関西圏への直結による交流人口の拡大を期待した。反対自治体は多額の財政負担に見合う費用対効果を疑問視し、並行在来線の経営分離を懸念した。
一方、「どちらともいえない」とした自治体のうち、佐賀県有田町は「国から提供されている情報だけでは判断できない」。回答を差し控えるとした同県多久市も「国やJR九州から率直で正確な情報提示が重要」とするなど、メリット、デメリットを含めた詳細な情報やそれを踏まえた関係機関による議論を求める声が上がった。
「フル規格整備について佐賀県の了解を得るために必要なこと」(自由記述)では、武雄市が、フリーゲージトレイン(軌間可変電車)導入を断念した国の責任明確化や財政負担軽減策の提案など4点を挙げた。
22年度の同ルート暫定開業への「期待」と「懸念」(複数選択)では、「期待」は「交流人口の拡大」が25市町で最多。「観光振興」(19市町)、「時間短縮効果」「利便性の向上」(各16市町)-などが続いた。「懸念」は「新幹線と特急を対面で乗り換えるリレー方式による利便性の低下」が16市町で最も多く、「沿線以外の地域の衰退」(9市町)が次いだ。
同ルートを巡っては、与党検討委が昨年8月、「フル規格が適当」とする基本方針をまとめた。だが、佐賀県の山口祥義知事は、財政負担などを理由にフル規格を前提とした協議に反発。昨年12月、国土交通省と佐賀県が今後の協議の在り方を事務レベルで確認することで一致した。佐賀県の反発を受け、国交省は20年度政府予算案に同区間をフル規格で整備するために必要な環境影響評価(アセスメント)費の計上を見送った。