三菱重香焼工場 売却検討 大島造船所 事業拡大に意欲 建造ドック対象か、社員処遇も課題

2019/12/26 [11:15] 公開

三菱重工業が売却を含めて検討している香焼工場

三菱重工業が売却を含めて検討している香焼工場

  • 三菱重工業が売却を含めて検討している香焼工場
大きい写真を見る

 三菱重工業が商船事業の不振を受け、主力の長崎造船所香焼工場(長崎市香焼町)の売却先候補に選んだのは、長年交流があり事業拡大に意欲的な大島造船所(西海市)だった。来年3月末までをめどに協議入り。譲渡範囲や社員の処遇などを詰めなければならず、課題は少なくない。
 香焼工場は、中韓メーカーとの競合で、これまで連続建造してきた15万~13万トンの液化天然ガス(LNG)運搬船の受注がストップ。手持ち工事量は、4万トン級の液化石油ガス(LPG)船3隻のほか、提携する今治造船(愛媛県)の受注分を請け負ったタンカー1隻を残すのみとなった。ほかに橋など海洋構造物も手掛けながら、市況の回復を待っている。
 三菱と大島は1993年ごろから人事交流を続け、大島の工場長は直近4代続けて三菱出身者が務めている。技術支援や、大島が香焼工場の施設を借りるケースもある。
 香焼工場の建造ドックは長さ約千メートル、幅100メートル。中央で半分に区切り、LNG船2隻を工期をずらして建造する。一方、大島のドックは長さ535メートル、幅80メートルと香焼の半分の長さ。バルクキャリアー(ばら積み貨物船)4隻を同時建造している。
 大島は平成に入ってバルク建造に特化し、生産効率が向上。年38隻程度のペースでフル操業を続け、約3年分を確保している。昨年の建造量129万トンは国内3位。80万トンで同4位の三菱造船(横浜市)をしのぐ。
 だが大島のドックは10万トン超には対応できず受注を断ってきた。中国がコスト競争力を高める中、大島はさらなる効率化や増産に向け、新たなドックや艤装(ぎそう)用の岸壁を求めている。
 香焼工場にもう1カ所あるドックは修繕用で、大島のドックと同規模。ただ、三菱はここで上五島国家石油備蓄基地の浮体構造物のメンテナンスに対応しなければならず、将来的には客船修繕事業の拠点化構想がある。
 このため、売買協議は建造ドックや岸壁、資材を置く敷地が対象になるとみられるが、同工場敷地内にはグループ会社の検査施設もある。大島は本社機能を移す考えはなく、関係者は「土地が増えれば、できることも広がる」と話す。
 人材の処遇や確保も課題となる。三菱は今年、大型フェリー2隻を受注し本工場(立神工場、長崎市飽の浦町など)で着工。香焼工場の社員約600人のうち約100人をこれに充てる。ほかを大島に転籍させる場合、三菱の給与水準の高さがネックとなる。
 造船業は下請け企業も多い。協力企業65社でつくる協同組合三菱長船協力会によると、香焼工場で働くのは約千人。ここ1年半で半減した。各社は県外メーカーに人員を派遣し、仕事を確保している。同会幹部は「三菱の社員に比べ協力企業の従業員は保障も少ない。生活を守るには一定の仕事量が必要。大島との協議が良い方向に進んでほしい」と述べた。