矢を放ち五穀豊穣願う 吉井のシシウチ行事 国選択無形民俗文化財 乙石尾地区 300年の伝統受け継ぐ

2019/12/14 [00:06] 公開

五穀豊穣を願い、イノシシに見立てたシトギ(手前)に矢を放つ参加者=佐世保市吉井町乙石尾

五穀豊穣を願い、イノシシに見立てたシトギ(手前)に矢を放つ参加者=佐世保市吉井町乙石尾

  • 五穀豊穣を願い、イノシシに見立てたシトギ(手前)に矢を放つ参加者=佐世保市吉井町乙石尾
  • ちぎって丸めたシトギを焼き、暖を取る住民ら
大きい写真を見る

 長崎県佐世保市吉井町に伝わる国選択無形民俗文化財「吉井のシシウチ行事」が13日、乙石尾地区の「セドの神様」と呼ばれるほこらであり、住民らはイノシシに見立てた「シトギ」に矢を放って五穀豊穣(ほうじょう)を願った。
 住民と市教委文化財課によると、乙石尾地区では「猪神(ししがみ)祭り」と呼ばれる。農作物に被害をもたらすイノシシが人里に下りてこないようにほこらを建て、約300年前に始まったという言い伝えがある。毎年この日に開いている。
 住民や地元企業などから15人ほどが集まった。うるち米の粉を練った「シトギ」に、木の実と枝、葉を付けて“イノシシ”を作った。住民は弓矢で狙い、行方に一喜一憂した。この後、小さくちぎって丸めたシトギを焼き、暖を取りながら口に運んだ。川内野猛さん(70)は「無事に終わり、ほっとした。先輩から受け継いだ大切な伝統を、若い人も守ってほしい」と話した。
 狩猟儀礼に詳しい名古屋大文学研究科の共同研究員、鈴木良幸さん(49)によると、こうした祭りは、愛知、静岡、長野3県の県境の10カ所、島根県の1カ所で営まれている。鈴木さんは「ほかの地区ではシトギを持ち帰るなど簡略化されている。その場で一緒に食べるのを受け継いでいるのは貴重で、団結力の高さを示している」と評した。
 吉井町では橋口地区(11日)と橋川内地区(15日)でも続けられている。