その言葉が日本に入ったとき、異論があったかどうかは知らない。終戦翌年の7月、米国はマーシャル諸島のビキニ環礁で原爆実験を始めた。その直後、ビキニと称する水着が発表されたという▲見た目の衝撃といったら原爆並みにすごい、と誇張したらしい。印象に残ればそれでいいという命名は今更ながら乱暴に思えるが、その名は世界で定着する▲その強烈な例えに「ビキニ」と似たような胸のざらつきを覚え、さらりと聞き流せずにいる。トランプ次期米大統領が、新設の組織を「現代版のマンハッタン計画」になり得ると発言した▲その組織は政府の業務効率化を担い、実業家イーロン・マスク氏が率いるという。第2次大戦中の原爆開発計画に例えることで、とてつもない計画だぞ、破壊力があるぞ、と印象づけたいのだろう▲マンハッタン計画の先で何が造られ、何が起きたか。トランプ氏の答えはこうかもしれない。「すさまじく、偉大な破壊をアメリカはやってのけた」▲計画に胸を張るような氏の発言に悪意はないが、思慮もなく、心ない。いたずらをした子どもを「悪意はないのだから」とかばう大人を、別の大人が「悪意がないからいけないのだ」とたしなめる、そんな例え話を思い出す。悪意のない言動は時に乱暴で、時に受け入れがたい。(徹)
現代版マンハッタン計画
長崎新聞 2024/11/15 [10:00] 公開