ライブ授業、海越え離島へ 長崎県遠隔教育センター来月開設 4高校で先行実施、専門的な授業可能に

長崎新聞 2025/03/19 [12:30] 公開

豊玉高の「情報I」の授業をする松尾教頭=大村市、県教育センター

豊玉高の「情報I」の授業をする松尾教頭=大村市、県教育センター

  • 豊玉高の「情報I」の授業をする松尾教頭=大村市、県教育センター
  • 遠隔で授業を受ける生徒=対馬市、豊玉高(県教委提供)
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長崎県立高で“海を越えた授業”が始まる。県教委が準備を進めてきた県遠隔教育センターが4月、大村市の県教育センター内に開設する。離島・半島部の小規模校対象のライブ授業などを配信。県教委によると、遠隔授業拠点の開設は一部の県と共に九州で初。本格実施に先行して県教委は本年度、ライブ授業を離島などの4校に配信し、効果や課題を探ってきた。

 2月上旬、県教育センターの一室。大きな画面に向かって、ヘッドセットを着けた教員が話しかけた。「そっちは天気良いですか」。画面の向こうは約180キロ離れた県立豊玉高(対馬市)。授業が始まるのを前に、次々に教室に入ってくる生徒が、こちらに向かって大きく手を振っていた。

 県教委は本年度、同校のほか宇久、中五島、平戸の各校に「情報I」のライブ授業を配信。この日は生成人工知能(AI)がテーマ。県立大村高の松尾賢志教頭が授業を担当した。

 画面に映し出したデジタルの教材にマーカーを引いたり、印を付けたりしながら授業が進む。「どんなこと感じた? チャットで送ってください」。チャット機能を活用してやりとりする場面も。画面の向こうで生徒同士がわいわいとした雰囲気になると、松尾教頭が「盛り上がっとるねえ」と目を細めた。

 県教委が4月開設する県遠隔教育センター(大村市)は、2022年度に開設の検討を開始。23年度当初予算に準備費を計上し、本年度にかけ開設準備に取り組んできた。センターの愛称は3月、遠隔教育拠点の英語の頭文字を取った「DECTT(デクット)」に決定。長崎弁の「できる」の意味も込められている。

 離島・半島部の小規模高では、生徒数の減少により教員数も減少。科目によっては教員が専門外の授業を受け持つこともあり、生徒の進路希望に応じた科目の開設は難しい課題がある。遠隔配信なら専門性の高い授業を提供でき、地域や学校規模に関係なく、生徒の興味や進路希望に応じた多様な学びの創出につなげることができるとの狙いだ。

 「DECTT(デクット)」は「Digital Education Center for Tele-Teaching」の頭文字。4月から県教育センター本館と、近接する宿泊棟に整備したスタジオから授業を配信。9校に対し県立大村高(同市)所属の専任教員が英語、数学、理科、商業などの遠隔授業を実施する。

 本年度は4校へのライブ授業のほか、県内全域の高校生向けに公務員試験対策や韓国語の講座などをオンラインで配信した。対象とした学校からは、1人1台の端末を使う機会が対面より増え「(生徒が)自然とパソコンが使えるようになってきている」との声も上がる。

 半面、課題も見えてきた。教室の後ろの方の席は画面越しだと表情や手元が見えづらく、声もはっきりと聞こえにくい。生徒の発言中、マイクが別の生徒の声を拾うこともあった。

 授業に当たった大村高の松尾賢志教頭は、口頭でのやりとりを必要な部分だけに絞れるよう、生徒がスライドを見れば分かる教材づくりを工夫。配信だと授業後に生徒と個別に話す時間があまりないため、一度の説明で理解しにくいプログラミングなどは解説動画を用意し、生徒が見返せるようにしている。「生徒側の積極性や自立心も対面より必要になるかも」と話す。

 課題の改善に向け、県教委教育DX推進室は▽端末上での作業状況が把握できるアプリの活用▽音声コミュニケーションの重要度が特に高い英語科目での個人用ヘッドセットの試験的導入▽配信スキルの向上を目的とした研修会実施-などを検討。「より充実した遠隔授業を提供できるよう努力していきたい」とする。他県の遠隔授業担当者との情報交換も行う予定で「全国レベルで遠隔授業のノウハウについて研究を進めていきたい」としている。