「砦」よりも安堵を

長崎新聞 2019/05/13 [09:17] 公開

 土や石を盛り、柵を設けた軍事の要所を「砦(とりで)」と言い、「砦を築く」とは自分の城に閉じこもることを指す。ほかを寄せ付けないような堅い守りを思わせる▲いまの世界を見渡せば、よそと向き合うべき国が砦を築き、そっぽを向き合っている。足並みがそろったためしはないにしても、この核秩序の乱れようは目を覆うばかりだろう▲核兵器を持つ米国とロシアは敵対し、核軍縮への対話も協力もあったものではない。イランの核開発を抑えようと、かつては欧米などとイランが「核合意」をしていたが、今の米国は合意から抜け、イランへの制裁を再び始めて、砦の柵を高くする。イランは反発し、緊張が走る▲北朝鮮は核兵器の完全廃棄に応じないどころか、ミサイルとおぼしい飛翔(ひしょう)体を発射した。軍事の砦は揺るぎないのだと、挑発に走っているらしい▲核拡散防止条約(NPT)の再検討会議を来年に控えて、その事前の協議は実りなく終わった。国連で採択された核兵器禁止条約に核保有国が反発し、非核保有国との溝をより深くしている▲「安堵(あんど)する」の「堵」の文字は「土を詰めて固めた塀」を表すという。安堵とは、塀があって安心する心持ちを指す。たやすくないのは承知の上で、築くべきは「砦」よりも安堵の「堵」、安心のよりどころだと言い続けたい。(徹)