160年の深い縁…長崎・大村と秋田・角館 大村出身の記者が旅、感じた「恩」とは?

2024/09/29 [11:28] 公開

江戸時代の町並みと深い木立が変わらず残る角館。鈴木さんは「大村がいなければ灰じんに帰した」と語る=秋田県仙北市角館町表町下丁

江戸時代の町並みと深い木立が変わらず残る角館。鈴木さんは「大村がいなければ灰じんに帰した」と語る=秋田県仙北市角館町表町下丁

  • 江戸時代の町並みと深い木立が変わらず残る角館。鈴木さんは「大村がいなければ灰じんに帰した」と語る=秋田県仙北市角館町表町下丁
  • 濱田謹吾少年の像。大村の像と同型で大村の方角を向き立っている=仙北市角館町岩瀬
  • 大村藩の大砲隊が宿泊したことを示す看板。姉妹都市提携のきっかけとなった=仙北市角館町川原町、百穂苑
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長崎県大村市は今年、秋田県仙北市(旧角館町)との姉妹都市提携45周年を迎えた。南北に遠く離れた両市だが、約160年前の戊辰(ぼしん)戦争を機に深い縁で結ばれたという。今でも大村を大事に思ってくれている人たちがいる-。そんなうわさを聞いた大村出身の記者が今月、角館を旅した。 

■変わらない町
 通りにそびえる深い木立に、立派な門。緑の向こうには武家屋敷がたたずんでいる。春は桜、秋は紅葉が重厚な町並みと鮮やかなコントラストを見せる。

 「みちのくの小京都」と呼ばれる角館は東北を代表する観光地。江戸時代からほぼ変わらない町並みに、年間400万人以上の旅行者が訪れるという。こっちはすごいな-。同じ城下町でありながら、観光誘客が課題に挙がる大村とどうしても比較してしまう。

 「いや、大村って言えばみんな分かる。自信を持って」。そう励ましてくれたのは鈴木和雄さん(78)。姉妹都市との交流に取り組む仙北市の市民有志「戊辰会」の会長だ。「大村には戊辰戦争で助けられたご恩がある」と力を込める。

 幕末、東北諸藩は奥羽越列藩同盟を結び、明治新政府に対抗した。だが、秋田(佐竹)藩は東北で唯一新政府側に回り、孤立。周囲の旧幕府軍から攻撃を受け、角館は防衛の最前線になった。そんな中、救援に向かったのが大村藩など新政府側の諸藩だった。

 大村藩は激戦の末に角館を守り抜いた。鈴木さんは語る。「大村がいなければ角館は灰じんに帰した。全国に誇る町並みは全てなくなっていた」。以来、角館では大村の犠牲者を丁重に弔い続けたという。記者が「長い友情だ」と言うと「友情なんてもんじゃない。命懸けで守った大村と恩を大事にしてきた角館の深い絆だ」と返ってきた。

■“奇跡”の看板
 絆を強く感じる場所があると聞き行ってみた。角館を代表する神社「神明社」の隣の銅像。見上げて驚いた。大村市の玖島城跡で見慣れた像と同じだった。

 像は大村藩の鼓手、濱田謹吾少年。15歳で出兵し、古里から遠く離れた秋田で戦死した。服には母のチカさんが「ふた葉より手くれ水くれ待つ花は/君がためにぞ咲けよこのとき」と和歌を縫い付けていた。遺体を洗った角館の人々は、息子を励ます母の心情を思い涙したという。

 大村出身の記者にとってはなじみ深い逸話だが、角館でも伝えられていてうれしかった。角館の像は大村の像と向かい合っているという。謹吾少年の目線の先には山と雲がどこまでも折り重なっていた。当時はどれほど遠い旅路だっただろう、と思った。

 角館の人々の思いは一つの“奇跡”を生んだ。舞台はレストラン「百穂苑」。代表の澤田雅樹さん(64)が見せてくれたのは「九州大村藩大筒方 御宿処」と書かれた看板だ。

 戊辰戦争時、大村藩の大砲隊は澤田家に宿泊していた。看板は当時のもので、大事に掲げてきた。今から約50年前、看板にくぎ付けになっている客がいた。たまたま角館を通った大村藩主・大村家の子孫だった。

 当時のことを澤田さんの父、武亮さんが書き残していた。「まるで、大村藩士が呼び寄せたものの如く。手を取り合って感涙した。言葉は要らなかった」。この出会いを機に、姉妹都市の提携が実現した。

 「今の町があるのは、見ず知らずの者をわざわざ守ってくださった皆さまのおかげ」と澤田さん。幕末では大村と角館の方言が互いに通じず、京都弁で会話したと教えてくれた。そうした心の交流も、この看板が象徴している。

■義理堅い理由
 滞在中、「大村」に反応してくれる町の人に何度も出会った。「戦で守ってくれたよね」「姉妹都市でしょう」「一度行ったがみんな親切だった」と反応はさまざま。地元の銘酒やお菓子もいただいた。

 帰りの新幹線。隣に座った女性も大村から来たことを喜び、豪雪の苦労や春を迎える幸せを語ってくれた。雪国の人の忍耐強さを感じ、この町の義理堅さの理由に触れた気がした。

 降車時、女性は笑顔で手を振った。「良い思い出になったかな。またおいでね」。遠ざかる秋田の山並みを背に、角館の人々への親愛の情が胸に込み上げてきた。