水道施設がない長崎県五島市赤島で、福井工業大(福井県福井市)環境情報学部の笠井利浩教授(51)らが、水の大切さを体感する教育プログラム「雨水生活体験」作りを進めている。生活用水を雨水に依存する不便な状況を逆手に取り、新たな地域資源として生かす試み。子どもたちが島での生活体験を通して環境問題を学んでいる。
赤島は福江島の南東にある面積約0.5平方キロの二次離島。人口は十数人。島民は自宅に設置したタンクに雨水をため、浄水器を通して飲料水などを確保している。
雨水の活用などを研究する笠井教授は2017年から、集めた雨水を浄化し給水するシステムを島内に整備している。既に、波板を斜面地に設けた雨の集水設備と6トンの雨水を蓄えるタンク、それらを結ぶ約200メートルの配水管を整備。今夏にも島内の簡易宿泊施設へ給水が実現する見込みだ。
笠井教授は研究の中で、限られた雨水を大切に使う島民の「超節水」生活に着目。食器を一度拭いてから洗ったり、入浴は体を拭いて済ませたりとさまざまな工夫があり、島民1人が1日に使う水は約60リットルと通常の3割ほど。水不足が世界的な課題となる中、笠井教授は島の生活自体を水の環境教育に生かせると考えた。
教育プログラムは昨春、福井市の子どもを招いて初めて試行。2回目となる今年、今月21日から2泊3日の日程で福井の小中高生12人が島を訪れた。講師は島民が務める。21日は赤島出身で定年退職後にUターンした山口勝己さん(78)が魚のさばき方などを指導。山口さんは「昔は人口も多く、海岸の岩場のくぼみにたまった雨水をくんで使うなど大変な生活だった。(生活体験で)島に子どもが来ると、島に活気が戻ってうれしい」と笑顔を見せた。
子どもたちは、海水で米をといだり雨水を料理や入浴に使ったりする節水生活を体験したほか、笠井教授が整備した雨水浄化・給水システムも見学。宮永歩さん(15)は「普段は何も考えず水道水を使っているけど、雨水や海水を使って料理をすると、水の大切さや生活の知恵を感じた」と話した。
笠井教授は今後、教材を作って指導役を設けるなど体験プログラムの体系化を目指し、行政機関や各種団体などに協力を求める考え。「日本では蛇口からきれいな水が出るのが当たり前になっている中、赤島の『水道がない』状況は他にない地域資源。淡水の源が雨水であると身をもって感じられる。赤島の伝統文化や島内探索などの体験も併せて継続的なプログラムを作り、島外から子どもを招くことで、赤島の活性化につながるのではないか」と期待を寄せる。