ろう者女性の生きづらさとは 映画「わたしたちに祝福を」 長崎出身の当事者、横尾友美さん制作

2024/07/19 [12:06] 公開

映画のチラシを持ち「多くの人に見てほしい」とPRする横尾友美さん=京都市内(本人提供)

映画のチラシを持ち「多くの人に見てほしい」とPRする横尾友美さん=京都市内(本人提供)

  • 映画のチラシを持ち「多くの人に見てほしい」とPRする横尾友美さん=京都市内(本人提供)
  • 映画「わたしたちに祝福を」の一場面。横尾さん自身が出演し、ろう者女性が抱える痛みを表現した(横尾さん提供)
  • 映画「わたしたちに祝福を」の一場面。出演者は全員、ろう者が務めている(横尾さん提供)
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聴覚に障害のある、ろう者の女性の生きづらさをテーマにした映画「わたしたちに祝福を」が完成した。長崎県出身で京都市在住のろう者、横尾友美さん(37)が監督、脚本、出演、編集、制作を務めたほか、他の出演者も含めスタッフのほぼ全員がろう者当事者によって作られたオリジナル作品。“無音”の世界の中で、ろう者が、女性が抱える痛みを表現し、見る者の心に強く訴えかける。
 各地での上映会実現に向け開催資金をクラウドファンディング(CF)で今月末まで募集している。
 映画は60分、三つのストーリーで構成。夫を亡くし過去と現在を行き来する高齢女性、手話が禁じられ、日本語を身に付けることができなかった母を見つめる娘、子どもが欲しい女性-3人の女性の内面を丁寧に紡いでいる。
 いずれも音声はなく、せりふは字幕として挿入されるが、出演者の表情と、手話を含めた身体的な動きが内面の感情を描き出す。
 各ストーリーの背景には、旧優生保護法に基づき多くの障害者が不妊手術を強いられていたことや、1990年代に入るまでろう学校で手話の使用が禁じられていた時代があったこと、そして障害者であることを理由に損害賠償の基準額が低く設定されていることがある。日本の社会制度によって苦しめられてきた、ろう者たちの強烈な叫びが画面から伝わってくる。
 横尾さんは大村市育ちで、小学校まで県立ろう学校に通い、中学・高校は筑波大付属ろう学校で学んだ。京都文教大文化人類学科に進んでから京都市で暮らしている。「ろう者の音楽」を表現したアートドキュメンタリー映画「LISTENリッスン」(2016年、牧原依里・雫境共同監督)に出演したことをきっかけに、手話を通した身体表現などを生かし映像や舞台など芸術作品の制作に取り組んでいる。
 今作について「服装やロケ場所はもちろん、各場面のどれか一つだけでも見る人の脳裏に残れるよう撮影アングルにこだわった」と横尾さん。出演者には言ってほしいせりふだけを伝え、あとはその人の表現に任せたという。「手話の会話や視線など自然な演出を引き出したかった」
 作品公開については「人と人が集まって一緒に鑑賞して、その場で共感し、コメントをやりとりするようなコミュニティーを大切にしたい」として、公共施設やミニシアターなどを借りて上映会を開くことを計画している。既に京都、東京、福岡での開催が決まっているほか、長崎県では県ろうあ協会主催で11月16日午後1時半から東彼東彼杵町の町総合会館文化ホールでも開かれる予定。
 上映会の会場費や宣伝費などに充てるため、現在もCF「CAMPFIRE(キャンプファイヤー)」(https://camp-fire.jp/projects/view/770303)で支援を呼びかけている。
 横尾さんは「映画のエンドロールには支援していただいた方々の名前が刻まれる。観客の皆さんに支えられ一緒に完成させる作品」とし、「いずれは国内だけでなく、海外の映画祭にも出品するなどして、日本のろう者女性の生きづらさを発信していきたい」と意欲を見せている。