発足したばかりの「対馬市エコツーリズム推進協議会」の活動の一環で、山の道の保全・管理を考えるワークショップを開催した。登山客が増え続ける一方で、シカの食害や豪雨などによって登山道は荒れ続けている。
昔は、山を生業とする炭焼き職人が木材や炭の運搬のために道を作り、その道を補修しながら守ってきた。今、その役割を担うべきは私たち山のガイド…ということで南アルプスエリアで官民連携して山の環境保全を行っている「(一社)北杜山守隊(ほくとやまもりたい)」から講師をお招きし、登山道整備を実際に体験しながら、今後の態勢づくりについて話し合った。
実際の修復作業は、私たちが普段イメージする「道の整備」とはかけ離れていた。真っ先にやるのは、崩れた箇所や周辺環境を観察して元の環境を想像すること。どうすれば崩壊を食い止められ、植生の回復を手助けできるかを最優先に考えるのだ。
水の流れを分散させる仕掛けをあちこちに凝らし、歩かせたい場所と歩かせたくない場所を考えながら、道を補修していく。倒木や石、土。その場に転がっている物が資材になる。路面をコンクリートで塗り固めたり、丸太を鉄の杭で固定したりはしない。目的は生態系の復元。力で地形を固定するのではなく、自然の回復力・営力を使って環境を再生させていく工法だ。
北杜山守隊の技術リーダーで山栄建設社長の山部晋矢氏が、活動に加わった理由をこんなふうに語ってくれた。
「土木の世界も自然環境との調和が求められる時代になる。その技術を磨き、環境再生の活動に先駆けて取り組んでいくことは、本業としても有利になるんです」
目からうろこ-だった。建設業の進むべき道が、クリアに示された気がした。
「環境土木」を冠する学科も増えてはいるが、現実の公共工事ではモルタル吹付の法面施工や三面護岸がなかなかなくならない。より安価に迅速に、防災を実現するにはそれが最適という面は確かにある。しかし、そもそもの仕様書に環境土木の視点が含まれていなかったり、単純な価格競争の入札が続いていて環境技術の有無が評価されなかったり、といった発注側の問題も大いにあるのではないか。
“次世代の土木”に向かって、発注側も受注者側も新たな一歩を踏み出すべき時だ。その背中を押すのは、地域の自然資源に価値を見出し、守り、伝えたいと望む市民の声であろう。山を愛する市民が集い、共に登山道を守っていく-その活動を通じて、少しでも環境土木への潮流を生み出したい。
【略歴】かわぐち・もとこ 1979年青森県出身。地域おこし協力隊員として対馬市に移住。一般社団法人対馬里山繋営塾代表理事。対馬グリーン・ブルーツーリズム協会事務局長。農村交流や環境教育に取り組む。北海道大大学院環境科学院博士後期課程修了。
昔は、山を生業とする炭焼き職人が木材や炭の運搬のために道を作り、その道を補修しながら守ってきた。今、その役割を担うべきは私たち山のガイド…ということで南アルプスエリアで官民連携して山の環境保全を行っている「(一社)北杜山守隊(ほくとやまもりたい)」から講師をお招きし、登山道整備を実際に体験しながら、今後の態勢づくりについて話し合った。
実際の修復作業は、私たちが普段イメージする「道の整備」とはかけ離れていた。真っ先にやるのは、崩れた箇所や周辺環境を観察して元の環境を想像すること。どうすれば崩壊を食い止められ、植生の回復を手助けできるかを最優先に考えるのだ。
水の流れを分散させる仕掛けをあちこちに凝らし、歩かせたい場所と歩かせたくない場所を考えながら、道を補修していく。倒木や石、土。その場に転がっている物が資材になる。路面をコンクリートで塗り固めたり、丸太を鉄の杭で固定したりはしない。目的は生態系の復元。力で地形を固定するのではなく、自然の回復力・営力を使って環境を再生させていく工法だ。
北杜山守隊の技術リーダーで山栄建設社長の山部晋矢氏が、活動に加わった理由をこんなふうに語ってくれた。
「土木の世界も自然環境との調和が求められる時代になる。その技術を磨き、環境再生の活動に先駆けて取り組んでいくことは、本業としても有利になるんです」
目からうろこ-だった。建設業の進むべき道が、クリアに示された気がした。
「環境土木」を冠する学科も増えてはいるが、現実の公共工事ではモルタル吹付の法面施工や三面護岸がなかなかなくならない。より安価に迅速に、防災を実現するにはそれが最適という面は確かにある。しかし、そもそもの仕様書に環境土木の視点が含まれていなかったり、単純な価格競争の入札が続いていて環境技術の有無が評価されなかったり、といった発注側の問題も大いにあるのではないか。
“次世代の土木”に向かって、発注側も受注者側も新たな一歩を踏み出すべき時だ。その背中を押すのは、地域の自然資源に価値を見出し、守り、伝えたいと望む市民の声であろう。山を愛する市民が集い、共に登山道を守っていく-その活動を通じて、少しでも環境土木への潮流を生み出したい。
【略歴】かわぐち・もとこ 1979年青森県出身。地域おこし協力隊員として対馬市に移住。一般社団法人対馬里山繋営塾代表理事。対馬グリーン・ブルーツーリズム協会事務局長。農村交流や環境教育に取り組む。北海道大大学院環境科学院博士後期課程修了。