「明治日本の産業革命遺産」(本県など8県の23施設)の構成資産に含まれる「第三船渠(せんきょ)」は三菱重工長崎造船所(長崎市飽の浦町)の構内にある。1905年の完成当時は東洋最大の規模を誇った。「西洋の技術を取り入れて造った素晴らしいドックです」
兵庫県播磨町出身。2006年、船の航海士から長崎造船所へ転職。以来ドックの保守点検と使用計画の作成に携わり、現在は船渠係主任を務めている。
最初に第三船渠を見た時は「古い」と驚いた。排水ポンプは明治期の物だし、ドックの底は平たんではなく、中央部を頂点にして左右に低く傾斜が付いている。「見たことがない形。どうメンテナンスするのか」と悩んだ。だが、実際に働いてみると全てが理にかなっていると分かった。
第三船渠は、船を入れた後に水門を閉めて排水する「ドライドック」と呼ばれる方式。底部に傾斜を付けているのは、低い方にある暗渠や溝に水が流れて短時間で排出するためだ。
船の大型化に対応して1943、57、60年と3度拡張しているが、底部に張った頑強な御影石は当時のまま残る。「コンクリートアスファルトよりはるかに強い。現代の大型船が入っても十分に耐えうる」と感嘆する。
3台の排水ポンプは110年にわたり動き続けている。動力のモーターは英国シーメンス社、ポンプはグウィンズ社(ロンドン)製。いずれも1時間に4千トンを排水し、もう1台の新しいポンプと合わせ、4時間でドック内の水をすべて排出する。「過去の記録を調べたが大きな故障はない。物がすごく良い」と明治の技術に舌を巻く。
維持するためには、敷石を修繕したり、湿気に弱いモーターに常にライトを当てて乾かしたりと、日常の保守点検が欠かせない。「世界遺産だから非常に責任が重い」と気を引き締めて仕事に臨んでいる。
「第三船渠」のメンテナンス担当者 畑二郎さん(44) 「責任重大」 気引き締め 明治の技術に感嘆 「物が良い」
長崎新聞 2015/11/30 [11:41] 公開