「迂回」疑惑払拭できず…長崎・大石知事の政治資金報告書問題 「寄付」へ訂正も理由語らず

2024/07/22 [11:00] 公開

2022年 知事選を巡る資金の流れ

2022年 知事選を巡る資金の流れ

  • 2022年 知事選を巡る資金の流れ
  • 記者の囲み取材に応じる大石知事=17日、県庁
  • 大石賢吾知事の政治資金問題を巡る経緯
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長崎県の大石賢吾知事の政治資金収支報告書問題で県議会は19日、大石氏の説明が不十分とし、全員協議会(全協)を開いてただす方針を決めた。2022年知事選で選対本部長だった自民党県議側から大石氏の後援会が借り入れたとしている286万円は、直接受け取れない企業・団体の寄付を受け取るための「迂回(うかい)献金」の疑いが指摘されている。大石氏は県議側からの「借り入れ」を「寄付」に訂正する考えだが、詳細な説明はしておらず、疑惑を払拭できていない。自らの後援会への2千万円の「架空貸し付け」疑惑も残る。論点を整理した。

 大石氏の後援会の22年政治資金収支報告書などによると、知事選(22年2月20日投開票)前の2月15日までに、医療法人など9団体が計286万円を、自民県議が代表を務める党県長崎市第八支部へ寄付。この県議の後援会は同18日に同支部から286万円の寄付を受け、同日中に大石氏の後援会へ同額を送金した。大石氏側は同年12月26日に利息を含め約293万円を返済した。

 当時の大石陣営関係者によると、目的は「知事選の資金集め」。選挙運動は医師の大石氏を推薦した自民県連と、医療関係者の政治団体である県医師連盟が中心だった。同連盟側は法人・団体としての寄付を希望する関係者には政党支部の口座をファクスで案内していた。

 政治資金規正法は候補者の後援会に対する直接の企業・団体献金を禁じている。一方で、政党支部への企業・団体献金は可能。識者は「外形的に迂回献金」と指摘し、大石氏や選挙関係者が違法性を認識しながら、法の網をかいくぐろうと行ったかどうかが問題だとみている。

 同支部に寄付した複数の医療法人は「大石氏の応援」と証言。同連盟幹部は取材に「当時は選対本部で協議して活動していた。法人の寄付窓口が政党支部でも問題ないという認識だった。その先の資金の流れは関知していない」と話し、寄付側に「迂回」の認識はなかったとしている。

 大石氏は今後、この問題で刑事告発を受ける可能性があるとして「捜査に支障を来す」と述べ、コメントを避けている。

 大石賢吾知事は6月24日の定例県議会一般質問で、県議側から借り入れた286万円について、知事と県議との金銭貸借は「政治倫理上問題がある」と指摘された。大石氏は「貸借は知事選の選挙コンサルの提案」「違法性はない」と答弁。ただ、自主的な外部監査で誤解を与えかねないと指導を受けたとして、「収支報告書を6月中に訂正する」と述べた。貸し手の県議と協議し、利息は返還し寄付に訂正する確認書を交わしたと発表した。

 ところが、4日後の同28日には「監査業務を行った者」に疑義が生じたとして、訂正の要否を保留。結果的に大石氏は今月17日、収支報告書の訂正を表明した。「弁護士を入れて検討し、寄付として処理すべきとの結論に至った」としたが、理由などの詳細な説明は避けている。

 仮に訂正を撤回する場合は一般質問の答弁との整合性が問われる。徳永達也議長は「知事の発言は重い」とくぎを刺しており、大石氏側は答弁に沿った形の結論を選んだとみられる。

 ただ、県議らの間には「迂回(うかい)献金とみなされないように貸借にしたのではないか」との見方があった。「借り入れ」にして返済すれば、お金をもらったことにならないからだ。大石氏が借り入れや寄付への訂正の経緯を詳細に説明しない限り、「迂回献金」との疑惑も払拭されない。

 また、もともと訂正に合意していた貸し手の県議は取材に「(知事と)認識が異なる部分もある」と回答しており、足並みがそろっているかは不透明だ。

◆2000万円二重計上

 大石氏の後援会の2022年政治資金収支報告書で、大石氏個人が自らの後援会に貸し付けたとする2千万円を、同年の知事選の収支報告書にも「自己資金」の入金として二重計上していた問題もある。大石氏は後援会に貸し付けたとの記載を「誤った処理」と認めて削除する考えを示し、24年3月までに後援会から受け取った返済金約655万円を返還したと19日に明らかにした。

 この問題については、大石氏の後援会の自主的な外部監査を担当した元監査人の男性が「架空の貸し付けで返済金をだまし取った疑いがある」とし、長崎地検に刑事告発したと発表している。大石氏は「法に抵触していない」と述べたが、知事選の収支報告書通り「自己資金」を選挙に使ったとの認識があったなら、返済金を受け取った段階で誤りに気付く可能性がある。大石氏はこれについても詳細な説明をしておらず、疑惑が残ったままだ。

 このほか、大石氏は知事選での公職選挙法違反(事後買収など)の疑いでも告発されている。

 県議会は26日に議会運営委員会を開き、全員協議会の日程を協議する。286万円の貸借を訂正する理由や資金の流れのほか、県政トップの「政治とカネ」を巡る疑問に対し、県民が納得できる答弁を引き出せるかどうかが焦点となる。