手元の辞書には〈共和国の元首〉と、とても素っ気ない説明が載っている「大統領」は国産の造語という説が有力だ。ちなみに同じ漢字圏の中国では「総統」と呼ぶようだ▲「PRESIDENT」を翻訳するという難題に初めて直面したのは江戸幕府の役人だった。1853年の黒船来航、ペリーは「プレジデント・フィルモア」の親書を携えてやって来た。はて、ぷれじでんと、とは▲民衆が選んだ権力者だから「国王」とは違う、という知見はあったらしい。幾つかの候補から選ばれたのが大工さんの頭をいう「棟梁(とうりょう)」で、文字をそれっぽく「統領」と置き換え、さらに敬意を込めて「大」が添えられた-という次第が有力説のひとつ▲さて、就任式から10日ほど過ぎた米国のトランプ大棟梁、いや大統領。猛然と始まったのはホワイトハウスを留守にしていた前政権の4年間の解体工事だ▲気候変動対策のパリ協定は「米国民に不当な負担をかけている」、世界保健機関(WHO)も「分担金が高い」。ヒトの性別は「男と女」しか認めず、移民は敵視の対象だ。エンジン全開のやりたい放題が続く▲ちゃっちゃとやっちまおう。勢いのいい仕事ぶりはまさに「大工さんの親方」を連想させる。ただ、新しい何かが出来上がる“建設的”な感じが全くしない。(智)
大棟梁
長崎新聞 2025/01/31 [10:00] 公開