森山町産そばを食べて! ブランド化進む「慶師野そば」 評判上々も…消費拡大が課題 長崎・諫早

2024/09/29 [12:20] 公開

県内のAコープなどで販売されている慶師野そば

県内のAコープなどで販売されている慶師野そば

  • 県内のAコープなどで販売されている慶師野そば
  • 一面に広がるソバの花のじゅうたん=諫早市森山町の上井牟田地区(昨年10月撮影)
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早期米で知られる長崎県諫早市森山町で十数年前から、稲刈り後の水田を利用したソバ栽培が進んでいる。JAながさき県央によると近年は農家5戸で年約40トンを収穫しており、生産者や同JAが「慶師野(けいしの)そば」としてブランド化を推進。「他県に比べそばを食べる文化があまりない」とされる県内での消費拡大を目指している。真っ白な花が咲くソバ畑には、地域の新名所としても期待がかかる。
 同町慶師野地区の木下憲美さん(59)が、2010年ごろから国の水田利活用自給力向上事業助成交付金(現在の「水田活用の直接支払交付金」)を利用し、二毛作として時期の合うソバの栽培に本格的に着手。上井牟田地区にも広がり、新規参入や撤退を経て現在5戸が取り組んでいる。
 生産が軌道に乗るまでは苦労も。湿害に弱いソバを水田で育てるため、畑の下に暗渠(あんきょ)排水設備を作り、水はけを工夫。ソバの種は約1週間で発芽するが、豪雨や長雨で種が流されたり高温で発芽しなかったりすることもあるため、種まきの時期は天気予報から目が離せない。約2、3カ月で収穫時期を迎えるが台風シーズンも挟み、心配事は山積みだ。
 11年から取り組む上井牟田地区の生産者、横田清さん(59)は「適度に雨が降れば良いが、天気はどうにもならない」と話す。実がついても中身が入っておらず、原因不明のまま収穫量ゼロの年もあった。
 収穫したソバは殻付きの「玄そば」としてJAが買い取り、商品化。同市長田町のそば店「青ごしょう」では2年前、北海道産から森山町産に切り替えた。仕入れた玄そばを自家製粉し、十割そばとして提供。粘りや甘みがあり、客からの評判も上々だ。スタッフは「地元産のおいしさが伝われば」と意気込む。
 ただ、生産量約40トンのうち飲食店で消費される量はごく一部。大半は製麺して商品化しているが、工程が多く県内での量産が難しいため、主に島根県出雲市の業者に委託。殻ごと粉砕し、のど越し良く風味の高い細麺に仕上げている。県内のAコープでは、年越しそばの時期だけでなく年間を通し販売しているが、まだ十分に周知できていないのが実情だ。
 横田さんは「コロナ禍でそば店が減ったこともあって、作っても地元だけでは消費が難しい。森山町産のそばをもっとPRし、皆さんにたくさん食べてもらえれば」と話す。
 毎年10月には白くかれんな花が咲き、広大な畑には一面に白いじゅうたんを敷き詰めたような光景が広がる。幻想的な風景を写真に収めようと、市内外から撮影に訪れる人も徐々に増えている。
 木下さんは「さまざまな面で苦労したが、今は仲間も増えうれしい。慣れ親しんだ古里の風景が荒廃しないよう、地域を守る手伝いとして、次の世代に渡せる環境を作りたい」と話した。