長崎県佐世保市中心部の繁華街で、迷彩服姿の米軍人が集団で歩く姿を見かける。彼らは一体? 正体は、米海軍佐世保基地の軍人による夜のパトロール。米軍人らが関係する事件・事故を未然に防ぐため、午後8時から翌日午前2時までの約6時間、繁華街を徒歩で見回りをしていた。同行取材すると、地元佐世保と友好な関係を維持するための地道な努力が垣間見えた。
陸上の巡回を意味する「ショアパトロール」と呼ばれ、原則金曜と土曜に行っている。
国内の在日米海軍基地施設では、勤務時間外に軍人が関わる飲酒関連の事件を防ぐため、軍人は午前1時~5時まで公共の場での飲酒が禁止。パトロールでは規則が守られているかなどを確認するのが目的だ。
3月のある日。午後8時、基地の一角に12人の米軍人らが整列していた。担当者の男性が声を張り上げ、パトロールの概要を説明した。4人1組の3班編成。出動区域は▽ダウンタウン1▽ダウンタウン2▽サケタウン-の三つだ。
記者が同行したのは、サケタウン担当。下京町や島地町など日本人向けの居酒屋が多い。リーダーはドック型輸送揚陸艦「ニューオーリンズ」の乗組員、ザック・モリス大尉(36)。メンバーは基地に停泊する船や陸上部隊の当直担当から選出されるという。
車や徒歩で区域へ向かい、午後8時半、パトロールが始まった。繁華街の目を縫うように、細い路地裏まで巡る。路上に寝そべるなど、地元住民に迷惑をかけていないかも警戒する。
泥酔した米軍人を見つけたら、乗ってきたバンに乗せて基地に連れ戻す。モリス大尉は「日本の警察の手を患わせることがないように、できることはする」と表情を引き締めた。
午後11時ごろ。米軍人らがよく通うというパブの中を偵察すると、店内には30人以上の米国人が酒を飲んで楽しんでいた。店の外にも10人ほどが集まっていた。モリス大尉は男性客と談笑し、数分で店を後に。「彼は僕を見て『まだ時間じゃないよね』と言わんばかりに、腕時計を確認していた。パトロールをしていると見せることが重要だ。抑止になる」
休憩もせず6時間も歩くなら、車での巡回では駄目なのか? 同行して抱いた疑問をモリス大尉に尋ねると「何かあったとき、すぐ車を止められるか分からない。徒歩の方がより迅速に対応できる」と応じた。
午前1時。飲酒規制時刻を回った。先ほどのパブを訪れると、まだ外に5人ほどがたむろしていた。モリス大尉は硬い表情で店内を凝視。中に入り、パトロールをアピール。バーテンダーから「大丈夫だ」と言われたという。「見た限り大きな問題はなかった」と安心した様子だった。
1時半。基地に戻るかと思いきや車で佐世保駅に。ロータリーをゆっくり回り「大丈夫だね」。泥酔している米軍人がいないか、最後まで確認していた。
基地に戻ったのは午前1時50分ごろ。約6時間に及ぶパトロールが終わった。携帯電話で記録した歩数は2万歩を超えていた。
モリス大尉は「特段変わったこともなく、成功に終わり良かった」と安堵(あんど)の表情を浮かべ、基地内の施設に去った。大きな背中からは疲れとともに、充実感も漂っていた。