近年、長崎県内の自治体窓口で住民らによる暴言や長時間電話などの不当要求に当たる行為が後を絶たず、職員が対応に苦慮している。長崎新聞社は県内21市町に行政対象暴力などに関するアンケートを実施し、北松小値賀町を除く20市町から回答を得た。記録が残っていなかったり、「暴力」の捉え方に違いがあったりして条件にばらつきはあるが、大半の自治体で多様化・複雑化する暴力の姿が浮かび上がった。
線引きが困難
アンケートは3月末から今月上旬にかけて、▽直近10年の行政対象暴力や不当要求の推移▽悪質性の高い事例▽検挙件数▽対策-などを書面で質問した。
長崎市は記録が残る5年間(2019~23年)で不当要求が計40件。職員では対応が難しく、警察に通報したケースもあり、職員の胸ぐらをつかむ暴行容疑などで3件が検挙された。市では市民と接する窓口に「不当要求行為等対策員」として県警OB8人を配置。不測の事態には個人ではなく、組織的に対応するようマニュアル化している。諫早市や大村市でも、この10年の間に暴行や銃刀法違反容疑などで逮捕される事案が発生している。
佐世保市は、件数は把握していないが「苦情と不当要求の線引きが困難な場合も多く、市の対応に納得してもらえずに長期化するケースがある」。西海市では14~23年に計107件の不当要求を把握。近年は短時間に何度も電話をかけてくる事案などが増えているという。壱岐市でも21~24年3月に電話による暴言などが144件に上った。
南島原市は直近10年で申し込んでいない書籍の郵送や料金請求などが5件。不当要求に対応するため、19、20年度に県警OBの配置を予算化したが、求人への応募がなく断念した。「(県警OB配置ができず)庁内での迅速な対応ができないことが課題」とする。
カスハラ増加
雲仙市は増加傾向にある事例として、来訪者らから威圧的言動を受けるカスタマーハラスメント(カスハラ)を挙げた。カスハラを巡って、東京都が全国初となる防止条例の制定を目指しているほか、福岡県が対応マニュアルを策定し4月から運用を始めるなど、社会的な関心が高まっている。
長崎市は1月、カスハラ対策の一環で、職員が首から下げる名札をフルネーム表記から名字のみに変更。交流サイト(SNS)で個人情報が特定されるといった被害を予防する狙いだ。
自治体の不当要求問題に詳しい大阪経済大の山谷清秀講師(行政学)は「市民による暴言や苦情の長電話は昔からあったが、それを『問題』だといえる時代に変わった」と指摘。市民からの不当要求を暴力団からの要求と一様に行政対象暴力として捉えることに抵抗感を示す声もあるというが、「全国的に(暴力団を対象とした行政対象暴力の)延長線上に捉え、対応している自治体は多い」とする。
窓口で不測の事態が発生した場合、「個人のテクニックだけで解決しようとするのは危ない」とし、一対一の対応が困難と判断すれば、複数対応に切り替えたり、警察や顧問弁護士に間に入ってもらったり、「逃げ道」を用意しておくことが大事と強調。窓口業務は個人の経験や資質による部分も大きく、職員を守るためには「(不得意な職員を配置しないなど)人事面を含め、全庁的に考えていく必要もあるのではないか」と話す。