長崎県南島原市は本年度から、コンピューターゲームの腕を競う「eスポーツ」を高齢者に楽しんでもらいながら、介護予防や認知症予防につなげる取り組みを始めた。各担当部署で効果を情報共有し、普及を図る方針だ。
昨年6月下旬、同市布津町の公民館に60~90代の高齢者男女17人が集まり、「eスポーツ体験会」が開かれた。用意されたのは音楽ゲーム「太鼓の達人」。画面に表示されるリズムのマークに合わせて太鼓を勢いよくたたき、好スコアが出ると笑顔を見せた。近くの山下光顕さん(80)は「初めてで難しかったが運動や頭の体操になりそう」と声を弾ませた。
市は同10月にも「南島原市eスポーツプレイランド!2023」を有家町で開催した。小中学生ら延べ464人が来場。メインはバトルゲームだったが、「eスポーツと健康・今後の展望」と題したセミナーには中高年層も参加した。担当した市防災課DX推進班の小谷和也さんは「eスポーツの理解促進への成果があった」と話した。
セミナーで講師を務めた島原病院脳神経外科医の佐藤慧さんも「3Dの広い世界を自由に動き回れるようなゲームや、身体を動かすことが要求されるゲームなどは認知症の予防・改善効果が報告されている。友人や家族などとの会話やコンタクトが容易であることも大きな利点の一つ」と話す。
今回のeスポーツ活用には市特有の事情も。総人口に占める65歳以上高齢化率は41%(2022年4月現在)で、過疎化も進んでいる。口之津町で内科胃腸科医院を営む塩田善之医院長(68)は「隣町はこの2年で2医院が閉院し、町に診療所がなくなった。近隣の患者さんが増え、地域医療を担う医師は減少している」と地域医療の崩壊に警鐘を鳴らす。
南島原署管内ではニセ電話詐欺被害が過去5年で12件発生し、うち5件は高齢者だった。中山間地域ではバス路線が縮小。農作業や通院、買い物などで車が手放せないことから、運転免許証の自主返納に消極的な高齢者も多く、事故の加害者となるケースも増えている。
市関係者は「(eスポーツが)高齢者の社会課題を一挙に解決できるとは思わないが、認知機能低下の防止に加えて医療・介護費など社会保障費の削減も期待できる」と話す。小谷さんも「シニア世代の新たな生きがいづくりとなり、健康寿命の延伸や健康づくりの増進に少しでもつなげられれば」と意気込む。
eスポーツをシニア世代に 認知症予防や健康増進へ…社会保障費削減も期待 長崎・南島原市
2024/02/25 [11:23] 公開