障害の有無にかかわらず投票しやすい環境をつくろうと、長崎市選管などが模索を続けている。物理的なバリアフリー化や制度の整備は一定進んでいる半面、投票所でのちょっとした心遣いで改善できる困り事はまだまだある。当事者を招いて課題を洗い出す「模擬選挙」の取り組みが、2年目に入った。
■具体的な誘導
16日、市内に設けられた模擬投票所。白杖(はくじょう)を持った男性が市職員の右肘に手を添え、記載台に向かった。職員が声をかける。
「右を向いてください」
「3歩ほど前に」
「(投票用紙は)縦書きでお願いします」
これらは視覚障害がある人への「具体的」な誘導。実は昨年2月に初めて実施した時に、職員が「こちらへ」などと全盲の人には分かりにくい表現を使う場面も見られた。当事者の指摘を踏まえ、今回は“アップデート”した形だ。他には動線を分かりやすくする床面の矢印なども新たに追加している。
■係員2人態勢
模擬選挙は「明るい選挙推進長崎市協議会」(事務局・市選管)と「市心身障害者団体連合会」が実施。前回浮き彫りになった改善点は、昨年4月の統一地方選で投票所マニュアルなどに反映したという。今回は視聴覚や身体、知的などの障害がある13人が協力し、入場から受け付け、候補者名の記載、投票、退場までの流れを確認した。
前回出なかった意見も。視覚障害がある女性は、投票所の係員が代筆する「代理投票」を依頼したが、係員に伝えた候補者名が「本当に書かれたのか分からない」と不安げ。市選管は必ず係員2人態勢で確認すると説明した。さらに代理投票で「秘密投票」の原則を守るため、投票者が選んだ候補者名を係員が教えてもらう際には、口頭ではなく「指さし」など周囲に知られない工夫が必要だと指摘する意見もあった。
■気付き生かす
市選管が新たに導入を検討しているのが「投票支援カード」。投票所での▽代筆▽誘導▽候補者名の読み上げ-などの支援内容をリストアップしており、当事者や支援者が事前に記入して係員に渡す。自由記述欄もあり、市のサイトからダウンロード可能。口頭で頼むのが苦手な人に使ってもらい、スムーズな支援につなげる狙いだ。
今回の模擬選挙でも使われた。ダウン症がある30代男性に付き添った支援者は、カードで代筆や誘導を選択。自由欄には「渡す、入れるなどはできる」「選んで書くのは難しく『○○さん?』『△△さん?』『誰にします?』と聞いて」と記し、係員に提出した。市選管は次回選挙からの本格導入を目指している。
市選管は「当事者から教わらなければ気付けないこともある。投票所のレベルアップにつなげたい」とする。