1月の能登半島地震では古い木造家屋の倒壊や大規模火災が発生し、密集市街地での防災対策の難しさをあらためて突き付けた。国が公表する、地震で住宅倒壊や火災延焼に至る危険性が高い「地震時等に著しく危険な密集市街地」には昨年3月末時点で、長崎市内の十善寺や立神、北大浦など7地区89ヘクタールも含まれる。市はハード、ソフト両面で対策を進めるが、車が入らない斜面地が多い地域の特性や高齢化の問題が大きく横たわる。
新地中華街に近い十善寺地区の館内町。斜面地が広がり、車が入らない狭い路地や階段の間に、古い木造家屋が並ぶ。同町では「地震時等に-」の指標となる「延焼危険性」と「避難困難性」の数値がいずれもクリアされていない。
「うちの自治会は70世帯のうち65歳以上の世帯が7割を超える。多くは年金暮らし。建て替えるだけの力はない」。同地区連合自治会長で同町東部自治会長の河原廣行さん(75)は、民家の耐震化や移転を伴う道路整備が難しい地域の現状を口にする。
国が初めて公表した2012年、長崎市内にあった「地震時等に-」は262ヘクタール。市は解消に向け、ハード面では斜面市街地再生事業による道路整備や、所有者が土地を含め寄付することを条件に市が建物を解体する「老朽危険空き家対策事業」などを進めてきた。ソフト事業では、耐震基準が強化された1981年より前に建てられた木造一戸建て住宅の耐震補強や防火改修、解体費用などを一部助成している。
だが用地買収を伴う道路整備は交渉に時間がかかるため事業が長期化。耐震補強や防火改修はリフォームや建て替えに合わせ検討されるケースが考えられ、車が通行可能な道路に面しているかが動機づけの一つとなる。
そこで市は2013年度から、斜面地の住環境の改善と防災性の向上を目的に「車みち整備事業」を推進。階段などを車道に整備するもので、地元自治会や地権者の同意と用地提供が前提となるため比較的スムーズに工事に着手できる。市都市計画課は「即効性のある同事業を推進し、建て替えの促進につながれば」と期待する。
■
一方、斜面地で暮らす住民の高齢化は、地域の「共助」にも深刻な影響を与える。十善寺地区では役員のなり手不足を背景に4年前に10あった自治会のうち3自治会が解散した。河原さんは「高齢者同士で、避難の声かけにも限度がある」と厳しい表情を浮かべる。
連合自治会では毎年、地元の婦人防火クラブや消防団と防災訓練を実施。4年前に消防車が入れない路地で民家火災が発生した際は河原さんら住民がバケツリレーなどで初期消火に当たり、延焼を食い止めた。
2年前には十善寺を含む旧仁田小校区を中心に、PTAや民生委員など44団体で構成する「地域コミュニティ連絡協議会」を設立。自治会単位で災害時に支援が必要な人の情報を掲載した「ささえあいマップ」作りなどにも取り組む。
そうした地域防災の歩みを止めることはないが、河原さんは能登半島地震の被災地の映像を目にし「道路幅が狭いなど、うちの環境と似ている。屋根瓦が落ちてくるとすぐに助けに入れない。一人一人の防災意識を高めるしかない」と危機感を強める。