厚生労働省指定難病「潰瘍性大腸炎」などの当事者団体の会長を務める県職員の五十嵐総一さん(36)が、病気への理解を深めてもらおうと「いま、IBDで不安なあなたに贈る本 患者・保護者の体験から知る潰瘍性大腸炎・クローン病」(みらいパブリッシング)を出版した。
幼少期から胃腸が弱かった五十嵐さんは、中学3年の冬に潰瘍性大腸炎と診断された。激しい腹痛や便意などに襲われ1日10回ほどトイレに行くことも。病気の内容故に教員や友人に相談することができない苦しい日々が続き、症状も回復と悪化を繰り返した。
2017年に症状が深刻化して3カ月入院。食事も取れず下血や高熱、頭痛などが治まらず、生きることすら苦痛に感じた。しかし入院中に生まれた長男が希望になり、「生きねば」と気を取り直した。投薬の効果などもあり、無事退院。19年に当事者団体の長崎IBD友の会「your ZEAL」(ユアジール)を設立。交流会や個別相談などの当事者支援に取り組む。IBD(炎症性腸疾患)は厚生労働省指定難病の「潰瘍性大腸炎」と「クローン病」の総称。現在は定期的な通院、薬の処方で寛解を維持している。
同書は、「患者数が増加傾向にあり、外見で症状が伝わらないこの病気のことを正しく知ってもらいたい」と企画。医師によるIBD関連の書籍はあるが当事者によるものはなく、交流サイト(SNS)での情報も錯綜(さくそう)していた。五十嵐さんは昨年10月に執筆を開始。監修は五十嵐さんの主治医である、県五島中央病院の竹島史直院長(61)に依頼して、今年7月に出版した。
同書には五十嵐さんを含む13の事例を収録。手術経験・未経験者や保護者らの体験談に加え、大腸カメラや入院に臨む際の心得など実用的な情報をわかりやすく説明。当事者の恋愛・結婚、就職活動、食生活などライフスタイルも紹介し、患者や家族目線の1冊になっている。竹島院長は「私自身いろんな患者さんの考えを知ることができて勉強になった」として「『難病』という言葉に不安を覚えるかもしれないが、現在は治療法が飛躍的に進歩し手術に至るケースは多くない。言葉に負けず前向きに捉えてほしい」と話す。
五十嵐さんは「いろんな事例を知ることで、不安なのは自分だけではないと思って励みにしてもらえたらうれしい」と話し、「周囲の無理解は患者にとってとてもつらい。腹痛は自己管理不足と決めつけずに、病気なのかもしれないという意識を持ってもらいたい」と訴えた。本の売り上げは難病支援活動に充てる。四六判。192ページ。1650円。全国の書店やインターネットサイト「アマゾン」などで購入できる。
◎炎症性腸疾患(IBD)とは
潰瘍性大腸炎とクローン病の総称。潰瘍性大腸炎は大腸に炎症が起き、クローン病は食道から肛門までの消化管のどの部位にも炎症や潰瘍が起こり得るが、特に小腸と大腸での発生が多い。いずれも腹痛や下痢、血便を繰り返す原因不明の病気で若年層が発症するケースが多く、炎症が長期間続くとがんの危険性が高まる。
県難病相談・支援センターによると、2021年度末の県内の患者数(特定医療費受給者証所持者)は、潰瘍性大腸炎が1353人、クローン病が506人。