多良岳山系にある長崎県諫早市高来町の金泉寺から単独で山に入った80代男性が7月、遭難し命を落とした。山岳遭難は県内でも後を絶たず、専門家は「1人や昼からの山登りは避けてほしい」「道に迷ったときは、元の位置に戻るのが基本」などと注意を呼びかけている。11日は「山の日」。
「あと1、2時間さまよっていたら、どうなっていたか」。大村市内の男性(89)はヒヤリとした経験が今も忘れられない。
ある年の夏。仲間5人で熊本県阿蘇中岳を目指し、目的の山小屋へ向かった。初めてのルート。道に迷ってしまった一行は近道しようと考え、来た道を戻らず目の前の草原を通ることにした。判断ミスだった。
芝生のように見えた草原は、実際は高低差20メートル以上の起伏が連なっていた。突き進んだが、雨でぬかるんだ地面に足をとられ、休める場所もない。霧で視界を奪われながら、ようやく本来のルートに復帰できたのは夕方5時を回っていた。
道に迷って5、6時間。1人が雨で体温を奪われ動けなくなった。別の仲間が山小屋へ助けを求め、何とか難を逃れることができたという。男性は「安全が第一だということを痛感した出来事だった」と話す。
長崎県警地域課によると、県内では昨年、15件18人(前年は13件16人)の山岳遭難が発生。男性1人が死亡し、4人が負傷した。道に迷ったケースが13人と最多で滑落4人、転倒1人。年代別では▽20代以下4人▽30歳以上65歳未満4人▽65歳以上が10人-だった。今年も10人前後が遭難している(8日現在の暫定値)。
昨年死亡した男性は滑落したとみられ、当時1人で行動していたという。今年7月の事故でも、亡くなった男性は見ごろを迎えたオオキツネノカミソリを撮影するため午後3時半ごろ、金泉寺から単独で群生地に向かい、遭難した。
「日が暮れたら身動きができなくなる。早めの登山、下山が鉄則。また、1人ではなくグループで登れば、誰かが滑落した場合でも救助を求めることができる」。こう指摘するのは県山岳・スポーツクライミング連盟の渡邉利博・遭難対策委員長(77)だ。
近年は位置確認できる登山アプリを活用する人も多いが、スマートフォンのトラブルなども考えられるため過信せず、紙の地図を読めるようにしておくことも大事という。「道に迷ったら、来た道を戻ることが基本」。元のルートが分からなくなった場合は谷筋に下りるのではなく、尾根に向かって登るよう促す。
夏山登山では熱中症対策に加え、天候急変や気温低下への備えも欠かせない。渡邉さんは「ルートなど登山計画は家族などに伝えておくことが大切。出発前に情報を共有しておいてほしい」と呼びかけている。