週末限定の移動書店 「しっぽ文庫」の長野大生さん(29) 本と人の出会いを無理なく 長崎

長崎新聞 2024/07/11 [12:45] 公開

「しっぽ文庫」店主の長野さん

「しっぽ文庫」店主の長野さん

  • 「しっぽ文庫」店主の長野さん
  • 来場者との交流も人気の移動書店(長野さん提供)
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長崎市南部を拠点に、ひとり出版社として移動書店「しっぽ文庫」を営む長野大生さん(29)=同市小ケ倉町2丁目=。「地域に溶け込む本屋さんでいたい」。穏やかに話す言葉の中に、地元への熱い思いがにじむ。
 週末の商業施設の一角。動物や乗り物などの絵本がいっぱいに並んだ机と、書店自慢のロゴマークが入った立て看板が見える。しっぽを上に丸めて本を開いている犬を目印に進むと「しっぽ文庫」にたどり着いた。“商品”は4歳の長男が実際に読んで気に入った絵本が中心。“店長”の長男が自ら店に立ち、本を紹介する姿も人気だ。
 同市土井首町出身。瓊浦高を卒業後、市内で就職し、街のインフラ設計に関わる仕事をしている。2019年からウェブメディアやフリーペーパーのライターも兼務。妻と2人の息子に恵まれ、家族4人で暮らす。
 移動書店を始めたのは、「地元に本屋さんがなくなったから」。幼い頃から漫画や絵本、小説などジャンルを問わず本に親しんできたが、市南部にあった身近な書店が相次いで閉店し、さみしさを感じていた。「自分も本を買えないし、子どもたちも本との出会いがない。それなら、自分で売ってみよう」
 しっぽ文庫の屋号は本や人との出会いから生まれる好奇心を、犬がしっぽを高く上げて好意を示すしぐさになぞらえた。店舗を持たず、週末限定の移動書店にしたのは家庭の安定と幸せを優先した上で、自分がしたいことを無理なく続けたかったから。全国的に書店が減る中、自主出版業を営む知人から経営の悩みを聞くこともあり、店を構える難しさを実感した。
 オンラインでも本を買える時代、対面での販売に「時代錯誤ではないか」と頭によぎった。それでも「地域に本屋さんを残したい」「子どもが気軽に立ち寄れる場所を作りたい」という思いが背中を押した。
 昨年10月に無印良品フレスポ深堀(同市深堀町1丁目)の「つながる市」を皮切りに、これまで8回、同町などで出店。今月20日の「つながる市」への出店で9回目を迎える。
 「顔の見える人たちに、本を直接届けられるところがいい。だけど、多くの人に知ってもらう機会は少ない」。小さな書店だからこその葛藤を抱えながら「しっぽ文庫」の未来を模索する。「待ち合わせ場所として、ふらっと立ち寄ってもいい。その中で書店の本にも触れてもらえたら」
 長く親しんできた町には、その場所で暮らす人たちの営みがある-。大人になり、地元の大切さに改めて気が付いたという。大好きな場所を次の世代に残そうと立ち上がった、小さな書店の物語は始まったばかりだ。

◎20日に「つながる市」
 「しっぽ文庫」が出店する第111回「つながる市」 7月20日午前10時~午後4時、長崎市深堀町1丁目の無印良品フレスポ深堀。同文庫は夏の読書感想文フェアと銘打ち、第53回県読書感想文コンクールの課題図書を販売する(一部を除く)。詳しくは同文庫のインスタグラム(shippo.bunko)