「幻の高来そば」バトンつなぐ ベトナム出身の中瀬さん 生産・販売法人代表に 長崎

2025/01/15 [12:10] 公開

「ソバの栽培面積を拡大したい」と語る中瀬さん=諫早市高来町、轟街道ふれあい市

「ソバの栽培面積を拡大したい」と語る中瀬さん=諫早市高来町、轟街道ふれあい市

  • 「ソバの栽培面積を拡大したい」と語る中瀬さん=諫早市高来町、轟街道ふれあい市
  • 「幻の高来そば」の生麺を小分けにする作業に追われる松永さん
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「地域の宝を守りたい」-。昨年11月、後継者が見つからず廃業を検討していた長崎県諫早市高来町の農業生産法人「たかき」の代表に、ベトナム出身の中瀬謙さん(51)=同市福田町=が就任した。「幻の高来そば」の生産・販売や、高来町の直売所「轟街道ふれあい市」の運営を受け継いだ中瀬さんは「高来そばを普及させ、安定供給できるようにしたい」と意気込んでいる。

 「幻の高来そば」のソバは同町の在来種で、小粒でねばりがあり、香りが高いのが特長。ゆでたそばを水でしめずに、とろみのあるゆで汁で味わう独特の「どろり」と呼ばれる食べ方で親しまれている。有志でつくる「幻の高来そば振興協議会」が種の保存やそば打ち技術の普及などに取り組んでおり、ソバの栽培と麺の製造、販売は「たかき」が担ってきたが、近年は知名度が高まる一方で、生産が追い付かないというジレンマも抱えていた。
 「たかき」が廃業した場合、「幻の高来そば」の供給がこれまで以上に難しくなるとともに、地域の直売所自体が消滅することになる。農産物を納める住民たちからは「直売所がなくなると困る」という声が寄せられていたという。
 こうした中、約15年にわたって高来そばの普及に努めてきた前代表の松永孝典さん(74)は、約1年前に知人から中瀬さんを紹介された。「全然知らない人だったので、最初は不安だった」と語るが、直売所の運営や農作業をともにするうちに、前向きで情熱的な人柄と「高来そばを普及させたい」という中瀬さんの思いに引かれ、事業を任せることにした。
 同町にツリーハウスを自作し、一般開放するなど地域活性化にも積極的に取り組む中瀬さん。今後はソバの栽培面積を拡大するため、国営諫早湾干拓事業で整備された中央干拓地への入植も検討しているという。
 「いらっしゃいませ」「どうもありがとうございます」。国道沿いにある直売所では、今日も中瀬さんの元気な声が響く。松永さんの長年の夢である「高来そばの食べ歩きができるまちづくり」の実現を目指して。