鋭く踏み切り、しなやかに舞う-。今大会限りでの引退を表明しているバレーボール女子日本代表の主将、古賀紗理那(28)は、2021年東京五輪後の3年間でジャンプを磨いて進化を遂げた。所属先のNECレッドロケッツで“スピードコーチ”を務める里大輔氏(38)=長崎市出身=が日本のエースに翼を与えた。
陸上の元短距離選手だった里氏はラグビー、サッカー、野球などのトップ選手に、スピードに特化したコーチングをしている。NECでは21年7月から、指導を任されている。
古賀との出会いは東京五輪の約1カ月後だった。速いし、力強い。でも…。「これで日本のエースなのかと思うぐらい体を使い切れていなかった。きちんと教わった形跡が見えなかった」のが率直な第一印象だ。
バレー選手はトップになるほど年間を通じて試合が組まれ、そのたびにコンディションを整える必要がある。半面、地に足を着けた「個の強化」が不足しているのではないか、と里氏は感じた。古賀は17歳の頃から代表入りしていた。
「もっとスピード出るでしょ。もっと高く跳ぶ練習しようよ」。真正面から切り出した。
当時の古賀は東京五輪で予選落ちして失意の中にいた。歯に衣を着せない新コーチの助言は新鮮だったのか。「絶対にやりたいです」。目に輝きが戻った。
強化の柱は二つあった。一つ目は体の「動作」を整えること、そして体の「機能」を鍛えること。「試合ごとに体をつくるのも大事だけど、1年先、数年先を見るのも大事」と説き、中長期的な視点でのフォーム改造に着手した。
具体的には助走からボールヒットまでの動作を11局面に分割。一つ一つを見直した。古賀は特に跳ぶ前の段階、助走の開始姿勢に問題があった。後ろ重心のままスタートを切るため、無駄なタイムロスが生じていた。助走の改良から、踏み切り、空中姿勢と段階的に変えた。
「機能」面では、助走や空中姿勢を安定させるために20種類、1日500回程度の腹筋メニューを課した。そこで里氏は、試合がある日も欠かさずに補強メニューに励む古賀の姿に驚かされる。「試合の日はなしって言ったのに毎日、絶対にやる。だから、進化のスピードがずばぬけて速い」。世界的なサッカー、ラグビー選手を指導する里氏でも、古賀ほどストイックな選手を他に知らない。古賀の進化と歩調を合わせるように、NECと日本代表の戦績も向上した。
古賀が五輪後の引退を表明したのは、パリにたつ直前の7月9日だった。突然の発表に惜しむ声が相次ぐ中、里氏はその決断を尊重する。「誰よりもうまくなりたいと願い、誰もかなわない努力をしてきた。24時間365日、素晴らしい選手であり続けた姿を見てきたから」
日本は3日のケニア戦で初勝利を挙げた。厳しい時ほどエースにトスが上がる。古賀は期待に応え続けた。一切の無駄をそぎ落としたフォームで速く、高く。有終にふさわしい花の都で美しく舞った。
陸上の元短距離選手だった里氏はラグビー、サッカー、野球などのトップ選手に、スピードに特化したコーチングをしている。NECでは21年7月から、指導を任されている。
古賀との出会いは東京五輪の約1カ月後だった。速いし、力強い。でも…。「これで日本のエースなのかと思うぐらい体を使い切れていなかった。きちんと教わった形跡が見えなかった」のが率直な第一印象だ。
バレー選手はトップになるほど年間を通じて試合が組まれ、そのたびにコンディションを整える必要がある。半面、地に足を着けた「個の強化」が不足しているのではないか、と里氏は感じた。古賀は17歳の頃から代表入りしていた。
「もっとスピード出るでしょ。もっと高く跳ぶ練習しようよ」。真正面から切り出した。
当時の古賀は東京五輪で予選落ちして失意の中にいた。歯に衣を着せない新コーチの助言は新鮮だったのか。「絶対にやりたいです」。目に輝きが戻った。
強化の柱は二つあった。一つ目は体の「動作」を整えること、そして体の「機能」を鍛えること。「試合ごとに体をつくるのも大事だけど、1年先、数年先を見るのも大事」と説き、中長期的な視点でのフォーム改造に着手した。
具体的には助走からボールヒットまでの動作を11局面に分割。一つ一つを見直した。古賀は特に跳ぶ前の段階、助走の開始姿勢に問題があった。後ろ重心のままスタートを切るため、無駄なタイムロスが生じていた。助走の改良から、踏み切り、空中姿勢と段階的に変えた。
「機能」面では、助走や空中姿勢を安定させるために20種類、1日500回程度の腹筋メニューを課した。そこで里氏は、試合がある日も欠かさずに補強メニューに励む古賀の姿に驚かされる。「試合の日はなしって言ったのに毎日、絶対にやる。だから、進化のスピードがずばぬけて速い」。世界的なサッカー、ラグビー選手を指導する里氏でも、古賀ほどストイックな選手を他に知らない。古賀の進化と歩調を合わせるように、NECと日本代表の戦績も向上した。
古賀が五輪後の引退を表明したのは、パリにたつ直前の7月9日だった。突然の発表に惜しむ声が相次ぐ中、里氏はその決断を尊重する。「誰よりもうまくなりたいと願い、誰もかなわない努力をしてきた。24時間365日、素晴らしい選手であり続けた姿を見てきたから」
日本は3日のケニア戦で初勝利を挙げた。厳しい時ほどエースにトスが上がる。古賀は期待に応え続けた。一切の無駄をそぎ落としたフォームで速く、高く。有終にふさわしい花の都で美しく舞った。